2012年1月10日火曜日

フェルメール『手紙を読む青衣の女』『手紙を書く女』『手紙を書く女と召使い』観賞記


2011年12月23日から2012年3月14日まで東京・渋谷区の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で開催の特別展示「フェルメールからのラブレター展」に行ってきました。

手紙をモチーフに取り上げたフェルメールの3点『手紙を読む青衣の女』『手紙を書く女』『手紙を書く女と召使い』をはじめ、1583年から1710年頃までを生きたオランダの28人の画家の作品が展示されています。オランダは当時のヨーロッパで最も識字率が高く、郵便制度が整備されてから手紙の利用が急速に増えました。日本でいうと安土桃山時代から江戸時代のころで、長崎の出島では、イギリスと連携してスペインの無敵艦隊を破った新興国オランダが貿易相手に選ばれていました。

『手紙を読む青衣の女』
 
窓辺にたたずむ青い服を着た女性が、手紙を見つめながら物思いにふける姿が描かれています。壁の地図にはオランダが描かれており、愛する人の不在を暗示しているといわれます。静かな構図の中から、女性の内に秘めた思いが(それがどんな思いなのかは誰にもわかりませんが)伝わってくる作品です。

『手紙を読む青衣の女』は日本初公開であると同時に、京都市美術館、宮城県美術館、そして、開催中の東京での展示という今回の巡回が、修復完了後の世界初公開となります。

その修復とは、有機溶剤を使った作業で、オリジナルの絵の具を隠していた汚れ、かす、黄変した古いワニス(透明な上塗り剤)を取り除き、フェルメールが意図した本来の清澄な青を取り戻す作業でした。なんでも、この作業は、所蔵するアムステルダム国立美術館の長年の悲願だったとか。

修復完了後世界初お披露目となった『手紙を読む青衣の女』は、遠くから見たときは、青い服にできた影が、ほんものの影のように見えます。美術館なので均一の照明が当たっていることは間違いないのですが、フェルメールの静かな構図と質感は、奥行きのある深い光と影の世界をつくっていました。

そして、修復された青。天然ウルトラマリンという顔料に由来するフェルメールの青は「フェルメール・ブルー」とも呼ばれていますが、なんともいえない鮮やかさ。館内には修復前の写真も展示されていましたが、別物に見えました。修復前の写真を掲載した画集や、絵ハガキや、教科書などが手元にある人でも、一見の価値ありといえるかもしれません。

『手紙を書く女』

『手紙を書く女』は、机に向かって手紙を書く女性が顔を上げている構図の作品。パソコンや携帯電話機器、スマートフォンらの普及で、現代でが日常生活の中で手紙を書くことが少なくなりましたが、羽ペンを持った右手の脇に、もう片方の手をそっと添える姿から、手紙が長く人々に利用されてきたことを実感させられました。

女性の黄色い服は、遠くからだと金色に輝いて見えます。白いフードは、間近で見るとふんわりとしていて、触れそう。

『手紙を書く女と召使い』

机に向かって手紙を書く女性の後ろに、別の女性がたたずむ作品。使用人の女性が目を向ける窓辺は、外光で輝き、窓枠の模様が浮かび上がっています。手紙を書く女性のイヤリングや、胸元の飾りは、静ひつな空間の中で静かな光を発しています。

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フェルメールの作品は見るたびに新しい発見があります。今回は、企画趣旨もあり、手紙に思いを託し、手紙をとおして誰かを思った17世紀の人々の生き様に思いを馳せました。

2012年6月30日から始まる東京都美術館の「マウリッツハイス美術館展 オランダ・フランドル絵画の至宝」では、『真珠の耳飾りの少女』(青いターバンの少女)が日本にやって来ることが決定したそうです。

この機会に、ぜひ、フェルメールの作品に触れてみてはいかがでしょうか。

竹内みちまろ


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